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① 孫の神と牛の神 |
むかあし、 とても しんぼうな 「孫作」 ちゅう百姓が後野におったんげな。 |
そのこらあ どこの国でも戦をしよおって、 |
ここ後野でも、 しょっちゅう武士が殺し合いをしとったんだげな。 |
そがあなある日、 |
いつものように孫作あ、牛よをひいてシロカキに出かけるんで、 |
みんなが、 |
まだ武士らあが、 じょうびら山におるんで 危なあけえ止めるよう言うたが |
孫作あ、 |
「戦あ、 武士らあがする嵐のようなもんで、 わしらあにゃあ関係なあことよ」 |
と、 田圃へ出かけたんだげな。 |
そいだが、 じょびうら山にゃあ、 みんなが言うたように、 武士がおって |
どがあ見間違ごおたか、 孫作と牛の姿あ見ると |
「ワ~ッ、 敵だ~」 っと |
そりょう知った孫作あ、 たまげて田圃から逃げ出すと |
じょうびら山にノロシウをあげ、 一斉に矢をつがえて射ち始めたげな。 |
山の上から見とった武士らあは |
「敵ゅう 逃がすな~」 っと |
いよいよ激しゅう矢を射ちだあて、 その一本が孫作の背中に突き刺さり |
つぎゃあ、 牛にも当たって倒れると |
じょうびら山の武士たちゃあ、 鬨の声をあげて山を下って来たんだげな。 |
ところが、 近こお寄ってよう見ると、 百姓と牛が死んどったんで |
がっかりして山へ引き上げて行ったんだが |
その晩のこと、 じょうびら山の武士たちにゃあ、 孫作のタタリでもあったんか |
一晩のうちに、 敵方の武士に、 みな射ち殺されてしもうたげな。 |
その後、 その辺のみんなあ、 気の毒にゅう思もおて |
災難におおた孫作を 「孫の神」 ちゅうて呼び |
百メートル走って倒れた牛を 「牛の神」 ちゅうて呼んで |
祭りをあげとったんだげな。 |
そがあして、 孫の神のところにゃあ、 桜の木ゆう植え |
牛の神のところにゃあ、 椨の木ゆう植えて |
戦のある時にゃあ 「徴兵避けの神さん」 として拝がんどったんだげな。 |
そがあな訳を知ってか知らあでか、 その辺のもんは 今も毎年 |
浜田から八幡さんの神主さんを呼んで、 祭りゆうしてもらっとるんだと。 |
※先頃の農地整備で田んぼ脇の林の中に移転された二つの神様。どちらが孫作かは不詳。 |